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今回、久々に聴き直して、20年近く前の自分の<もがき>みたいなものに触れて、変な話、励まされた(笑)

2000年。撮影:石田亮介

―いわゆるフォロワーですね。

フリッパーズもサニーデイも、それまでの流れを壊すようなやり方で自分たちのスタイルを確立していったはずなのに、そこをすっ飛ばして、上っ面だけ真似てるようにしか映らない中途半端な人たちが沢山出てきて。
自分はそんなつまらんフォロワーにはなりたくないって、そればっかり考えてたから、ぼくの出してた音はどうも素直じゃなくて、歪んでたと思う。
レコード屋の店員さんが書くキャプションとか音楽誌のレビューとかで見かける言い回しで、<〇〇への××からの回答>みたいなのあるじゃない?

―ありますね(笑)

ピチカート・ファイヴへの水戸からの回答、みたいな、サニーデイへの水戸からの……みたいな(笑)

―水戸なんですね(笑)。あ、水戸のサークルからの。

そう。人生の背景と、水戸での濃い経験がごった煮されて出た<回答>が『くらしのたより』だったんじゃないかな。
過去の色んな音楽が好きで、それを作った人たちへ「ぼくがファンレターを書くとこうなります」っていうのを、とりあえずぜんぶ吐き出そうと思って作った感じがあるんだよね。

―なるほど。オレにはこう聴こえたから、こう歌ってみるんだ、みたいな葛藤のままに、作り手への敬意と聴き手への宣言みたいなものを、前園さんなりに表明したんですね。

レコードの<中の人>がさ、どれだけ音楽というものに狂ってるのか、表現することに狂ってるのかっていうのは、ある程度、数を聴いてくると判るようになるじゃない。

―そうですね。

そういう人たちの表現を聴きながら生きてると、それまで退屈だった人生もなんだかワクワクしてきちゃったんだよね(笑)
高校生の時になんとなく音楽を作る人になりたいなあと思ってから22歳で『くらしのたより』をリリースするまでの間に「マジでヤバイなこの人たち」と感激してしまった瞬間がたくさんあって、その時期のショックの蓄積でずっと音楽をやってるような感じなんだけど。

―そんなショックを、前園さんなりの回答に変えて、初めて表現できるようになって作ったのが、『くらしのたより』。

うん。やってた当時はそんな細かく考えてもなかったけど。いま振り返ってみれば、という話ね。
でもね、そういった自分なりの回答を表現してみる、って考え方が間違ってなかったと確信した時があって。それは、後に小西さんたちと組んだ前園直樹グループというバンドで活動してた時なんだけど。
そのバンドは日本に残された歌を、新しく編曲して歌うのがコンセプトだったんだけど、レパートリーは、特に詞……言葉に注目して選曲したんだよね。それは20世紀末に流行ったレア・グルーヴのやり方を、詞でやってみたようなところがあって。

―詞のレア・グルーヴ。

レア・グルーヴって、特定のジャンルじゃなくて着眼点とか姿勢のことを示しているんだと思ったら、また感激できる音楽の幅が一気に広がっていった。それで、そういう考え方って、実は自分が『くらしのたより』の時からやってる<自分なりの回答>ってのと変わらない気がして。

―他人がどう思う、の前に自分なりに表現する、というのが大事なんですね。

ホントにそう思う。
例えばサウンドとかアレンジの移り変わりは時代ごとのゲームみたいなもので、みんなが着る服みたいにその時々のトレンドがあるんだよね。だけど、その核にある歌とか詞に作った人の性質が強く刻まれてて、しかもそれが上質なら、時間を経た後で別のアレンジが施されても、もういちど光ったりするからね。

2000年。撮影:石田亮介

―そういうことって『くらしのたより』を作っている時にも気付いてたんですか?

いや、作り終えた後だった。ぼくにとっては、そういうことに気付くためのステップみたいなアルバムだった。

―実際『くらしのたより』の詞作はどんな感じだったのでしょう? ぼくから見ると割と詞の世界が確立されてるな、という印象なんですが。

レコードをたくさん聴くことで自分の中に蓄積した参考資料を頼りに、<サウンド・コラージュごっこ>みたいなことに興じていた感じがするんだよね。
その分、詞はね、サウンドに従順というか、音が飛んだり跳ねたり不穏だったりするのに対して、言葉は素直に反応して着地してるみたいな。

―ムズカシイですね(笑)

耳触りはイイけど、1曲の中で歌詞の整合性は取れてないんだよね。やっぱりこの時は、納得のいくスタイルは確立されてないよ。
でもこの時は「もうこのままいっちゃえ」みたいに、妙に冷めてたとこがあった。いちど、作品として出すことで気づくこともあるだろうと。さっきも言ったけど次へのステップだと思ってそう決断したね。敗北感を覚えながらね(笑)

―そこまで……。

うん。それで『くらしのたより』をリリースした後は、詞をしっかり書けて、それを歌えるヤツになりたい、と思いながらやってて、リリースから半年くらい経った頃に「すてきなあなたに」という曲が書けたんだけど、あれでようやく自分なりのスタイルを強く打ち出せた感じがした。
あ、でもあの歌も2003年にリリースする直前までに色々あったんだけど、その話は、止めときましょう(笑)

―何ですか、気になります(笑)。でも、「すてきなあなたに」には、しっかりしたスタイルというか、普遍性みたいなものを感じます。
そして今現在は、新井俊也さんとのユニット<冗談伯爵>で前園さんが全て作詞をされていて、冗談伯爵が楽曲を提供している脇田もなりさんにも、詞を書いてますよね?

作詞はね、年々、楽しくなってきた。提供の場合はまた、冗談伯爵用に書く時とは別のハードルが立ちはだかって構えたりするけど、それでも楽しい。歌詞で出来ることはまだたくさんあると思うよ。
今回、『くらしのたより』のリマスター配信の話をいただいてからアルバムを久々に聴き直して、20年近く前の自分の<もがき>みたいなものに触れて、変な話、励まされた(笑)。ぼくは寡作だから、生きてるうちにあとどれくらい書けるか判らないけど、色々な経験をして、もっともがいて、寡作なりに作品を残していこうと思ったね。

(2020年4月11日・広島市・前園宅にて)

聞き手=山岡弘明
1985年広島生まれ。8年間のサラリーマン転勤生活を経て、2017年夏よりSTEREO RECORDSに勤務。傍ら、海外アーティストのイヴェント企画制作などやっています。
STEREO RECORDS

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