●くらしのアイデア。(後編)
前園直樹『くらしのたより』リマスター配信記念

選・文:前園直樹

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きのうに引き続き、『くらしのたより』制作の背景と、楽曲の解題をお届けします。本日は、残りの4曲について振り返りながら解説してみたいと思います。

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全10曲中、4曲で採用している鍵盤ハーモニカはスズキの
メロディオン<PRO-37>(アルト37鍵タイプ)でした
<ピアニカ>はヤマハの鍵盤ハーモニカの登録商標なので誤り

07 ためいきばかりのブルース / Sigh Blues 
作詞 / 作曲:前園直樹
編曲:前園直樹

ヴォーカル / 演奏:前園直樹
プロデュース:前園直樹
録音:2001年7月

今回、当時のレコーディング・データを当たってみたところ、2001年の7月にまとめて4曲の録音作業を行なっていたことが判りました。
リリースが同年10月25日ですから、結構ギリギリのタイミング。

それで思い出したのですが、MIDIの久保田さん(インタヴュー参照)と一緒にぼくのアパート、すなわち録音現場に来ていたミックス・エンジニアの千葉さんには録音済みの曲から(ご本人持参のマックで)ミックス作業に入ってもらいつつ、その間、ぼくは佐藤さんのお宅へ行き、共同プロデュース曲「Balloon」の作業を行なう、なんてこともありました。

この終盤の段階で、レコーディング未完の単独プロデュース曲は「ためいきばかりのブルース」と「くらしのたより」の2曲。
ただしこの2曲に関しては、作曲当初からアレンジの方向性もはっきりしていたので、タイムリミットが差し迫るなかでも、淀みなく完成まで漕ぎつけました。

曲想について。
この頃、浅川マキのファースト・アルバム『浅川マキの世界』と、アルバムにも収録された楽曲「夜が明けたら」のシングルを相次いで入手。
「ためいきばかりのブルース」のイメージの土台には、彼女のレコードから受けた感銘が寄与していたのだと思います。

じぶんで歌うつもりで書き始めましたが、歌詞に登場する一人称を<わたし>にするなど、実は女性歌手へ提供してみたいという願望もありました。
前年にリリースされ話題となり、<SOUND GALLERY*>でもヘヴィー・プレイされていたエゴ・ラッピン「色彩のブルース」や、そのさらに前年の、ポート・オブ・ノーツ「(You are)More Than Paradise」といったレコードの存在も、創作の動機になっていたのだと思います。

* インタヴュー記事および本稿の前編にも登場する、水戸で開催されていた月例のクラブイヴェント。『くらしのたより』共同プロデューサーの佐藤勝紀さんが主宰DJを務め、前園がライヴでレギュラー出演していた

アレンジ面では、大サビに当たるパートで、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ版(編曲:ニック・デカロ)「Snow Queen」の(同じく大サビの)躍動感を参考にしました。もっとも、テンポがかなり異なりますし、そもそも「Snow Queen」はワルツ・タイムの曲ですから、そっくりそのまま、という意図はありませんでしたが。

ROGER NICHOLS & THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS / Snow Queen

ループさせたリズムの採用は、リズム・ボックスを用いたニュー・ソウル期の黒人音楽を夢中で聴いていた影響。その流れで細野晴臣『トロピカル・ダンディー』にたどり着いたり、とそんな時期でした。
ヴィンテージ機材が高価で入手し難かったことを逆手にとり、MONO / POLYで作った音やサンプリングした打楽器音などをサンプラーに入れ、ループを構成したのでした。